Sommelier- 連載7 (最終回) 美術工芸品の「格」=「人格」(後半)
「Sommelier」1年2カ月続きました連載、最終回です。
一般社団法人日本ソムリエ協会が発刊する会報誌にオーナー井村による7回の連載を掲載:最終回(後半)
初恋の人
その壺が井村美術館につい先日、到着しました。自分の眼力が試される瞬間……。
そこには40数年前に一目見て「すごい!」と思った、あの鳥たちの躍動感がありました。
この壺は、17世紀後半の柿右衛門様式の染付で、まぎれもなく東インド会社がヨーロッパへ運んだものです。沈香壺(じんこうつぼ)といって伽羅などの香木を入れたりするもので、おそらく王侯貴族の宮殿のサロンに置かれていたのでしょう。
柿右衛門様式の作品で八面が面取りされていますが、それが非常に美しいです。しかも大きさに合う調和のとれた力強く流麗な筆使いが絶妙で、当時の職人の魂がはっきりと感じられる名品だと思います。超絶技巧ながら、研ぎ澄まされた緊張感のある中にも、どこか熟練の職人が鼻歌まじりでリズミカルに描いたような大らかさが私にとって気が休まり、いつまでも眺めていたい気にさせるのです。
この連載の最終回に間に合わせるかのように私の手元に戻ってきたこの作品。そのどっしりとした風格から、いいものを作ろうという350年前の職人魂が今も時を超えて現代に伝わることに感動し、幸せを感じます。
「格」には人格が宿る
不思議な話ですが、心をこめて制作された品々には、格・人格が宿ります。
今回の題材となった壷は40年前に出会った時から、私に語りかけ、想いを伝えようとしていた気がします。
最初ロンドンで出会った時には、「お疲れ様でした。必ず君を日本に連れて帰るよ」と思い、手放す時には、「また絶対に逢いたいね。」と……。そして昨年末には「おかえりなさい」と語りかけました。お客様からも、まるでそれが分かっていたかのようなお言葉を頂きました。
想いを込めて作られた製作者の手からは、その魂や想いを伝えるなにかが発せられているのではないか…といつも感じながらこの仕事に携わってきました。だからこそ、この仕事の不思議な魅力に取りつかれたのかしれません。
ソムリエも美術商も、人間の作った物の中に宿る心音までをも感じ取り、まだ感じていない人達に伝えるトランスレーターのような興味深い仕事なのかもしれませんね。
知れば知るほど奥深い世界にいるのだと思います。
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京都美商ギャラリーは、1961年に京都下鴨で創立した西洋アンティーク・肥前磁器の専門店です。長年蒐集をしてきた経験をもとに、オールドバカラやオールドフランス、古伊万里や柿右衛門などを取り扱っております。量産品ばかりの近年では見られなくなった職人技、手作りの温かみの魅力をより多くの方に身近に感じて頂きたいと考えています。
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