京都美商ギャラリー 京都美商ギャラリーは、1961年に京都下鴨で創立した西洋アンティーク・肥前磁器の専門店です。長年蒐集をしてきた経験をもとに、オールドバカラやオールドフランス、古伊万里や柿右衛門などを取り扱っております。量産品ばかりの近年では見られなくなった職人技、手作りの温かみの魅力をより多くの方に身近に感じて頂きたいと考えています。

Sommelier- 連載7 (最終回) 美術工芸品の「格」=「人格」(前半)

「Sommelier」1年2カ月続きました連載、最終回です。

一般社団法人日本ソムリエ協会が発刊する会報誌にオーナー井村による7回の連載を掲載:最終回(前半)

ソムリエ-(7)

「美術工芸品を選ぶときにこだわっていることはなんでしょうか?」と問われ、一言で答えるとしたら、私は、「作品の品格」と答えるでしょう。
料理にも格があるように、ワインの世界にも「格」があるのではないでしょうか。
       
歴史を振り返ってみましょう。最も格の高い美術工芸品が作られていた時代の一つがベルエポックです。数々の素晴らしいテクニックの作品がたくさん作られ、美術史上、最も華やかでエキサイティングな時代でした。これまでこの連載で書いてきたように、「万国博覧会」がその背景にあります。各国がこぞって当時の最新技術を駆使した作品を次々と生み出し、出品した競い合いは、「血を流さない戦争」ともいわれています。
         
しかもそれは単なるプライドをかけた争いではなく、ビジネスに直結していた熱い戦いでした。素晴らしい作品であればあるほど、当時の美術界のパトロン、すなわちヨーロッパの王侯貴族たちが高い価格で求めました。

             

                     

初めて落札した作品

クリスタルや焼き物では、特に「角(かく)」があしらわれた作品に、私はとくに品格を感じます。
角を作り出す技術は、「面取り」と呼ばれ、焼成時に収縮率の関係で破損するリスクが高く、「歩留まりが悪い」とされ、丸く成形するのが一般的です。それを知っているからこそ、職人の挑戦が必要になる「面取り」作品に出会うと、相当な手間がかけられていることが自然に伝わってきます。

          
長い年月の中、私にとって忘れられない作品があります。

         
今から約40年も前に、父の代理でロンドンのサザビーズで初めてオークションで落札した壺も、八角の作品でした。当時、病床にあった父から、サザビーズのカタログを渡され、「ロンドンに行って、この壺を落札するように」と言われたのです。カタログには17世紀後半の柿右衛門様式の作品とありました。当時、私は大学2回生でしたから20歳。
門前の小僧で、とくに焼き物には並々ならない関心があり、毎日のように日本にある柿右衛門の作品集を眺めていました。とは言うものの、初めての一人旅、初めてのサザビーズへの参加、初めての落札、しかも当時はほとんどが現金取引でしたから、初めての大金を携えてという初めて尽くしのミッションは当時の私には相当荷が重い役目でした。しかも出品されたその作品を自分が判断できるのか、そこにもまだ自信がありませんでした。
 とはいえ、父から与えられた貴重なチャンス。素晴らしい作品を落札して、病気の父親を喜ばせたいと気持ちを奮い立たせ、ボンドストリートにあるサザビーズの本社へ向かいました。
下見会場には、オークションの経験をたくさん積んだような立派ないでたちの紳士ばかりで、ますます緊張が走りました。

さて、目的の壺は……。
一目見た瞬間、直感的にこれはすごい!と感じました。それはまるで空を舞っている鳥たちの羽ばたきが聞こえてくるかのような躍動感のある作品だったのです。とてつもない魅力を感じて、これは絶対に落札して、日本に持ち帰ろうと覚悟を決めました。


いざ、オークションが始まると、ライバルが多く、落札予想よりどんどん価格がつり上がっていきました。 

最終的に、落札予想価格の3倍以上の高値での落札となり、持ち帰った壷を父に見せ、結果を伝えると大変驚いていました。 しかし、後日、父が仲間の骨董商たちに、自分の息子が初めて買ってきた美術品だといってその壺を見せていたので、案外まんざらでもなかったのではないかと思ったものです……。
                          
そのすぐ後、この壺は東京の大病院の先生のもとへ納められ、それ以降私が目にすることはありませんでした。ところが40年の月日を経た昨年末、その先生がご高齢で亡くなられ、先生のお嬢様から突然に、次のようなお電話がありました。
           
「父が愛していたこの壺をどうしようかと母と話したところ、井村さんにすべて託したほうが、亡くなった父が一番喜ぶのではないかと思い、お電話しました」

                   
不思議なことですが、実は私はこの壷を納めるとき、いつかは自分の手元にきっと戻ってくると感じていました。確証があったわけではなく、単なる自分の勘みたいなものです。
そしてお嬢さんは、お母様からの伝言もお話しくださいました。

             
「井村さんにすべておまかせします。もし井村さんが持ちきれなくなったらオークションにかけてもかまいません。すべて井村さんにゆだねますと母が申しております」

                    
故人が大事に愛でていた壺を守ろうという家族の愛に、心が熱くなりました。なんとありがたい言葉でしょうか。

          

←Sommelier- 連載6(後半)    Sommelier- 連載7 (最終回後半)→

関連記事

オールドバカラ・柿右衛門・今右衛門の専門店|京都美商ギャラリー

京都美商ギャラリー

京都美商ギャラリーは、1961年に京都下鴨で創立した西洋アンティーク・肥前磁器の専門店です。長年蒐集をしてきた経験をもとに、オールドバカラやオールドフランス、古伊万里や柿右衛門などを取り扱っております。量産品ばかりの近年では見られなくなった職人技、手作りの温かみの魅力をより多くの方に身近に感じて頂きたいと考えています。

屋号 京都美商株式会社
住所 〒606-0804
京都市左京区下鴨松原町29
電話番号 075-722-2300
営業時間 11:00~17:30
定休日:水曜日
代表者名 井村 欣裕
E-mail info@kyotobisho.com