Sommelier- 連載2 (後半) ヨーロッパで最も有田焼を愛した王様
一般社団法人日本ソムリエ協会が発刊する会報誌にオーナー井村による7回の連載を掲載:第2回目(後半)
有田焼を愛してやまなかった「アウグスト強王」
栃木・足利に栗田美術館という陶磁美術館があります。
そこに収蔵されている有名な古伊万里の壺「色絵 桜菊牡丹図蓋附特大壺」があります。これは海外から里帰りした作品のひとつで、当時の有田では壺の高さが最大80cmと言われていましたが、その作品は130cmもあります。
よく見るとひずみがあります。窯の中で火力と自らの重さに耐えきれずに、3、4段ひずんだんだと思われます。当時はそれだけ高さがある焼き物を焼くことは不可能に近く、奇跡的に焼けた貴重な壺といえます。
なぜリスクを冒してまで背の高い壺を焼いたのか。古伊万里や柿右衛門様式を好んだヨーロッパの王侯貴族たちが、その壺を飾る場所といえば宮殿です。宮殿は天井が高いので、バランスを考慮すると背の高い作品が喜ばれ、高額に取引されたと思われます。
壺の運命
この壺は、実は不思議な運命をたどっています。この壺と深くかかわっているのが、ポーランド国王にしてザクセン選帝侯でもあったアウグスト強王(1607~1733年)。
日本磁器にとてつもなくほれ込み、オークションでは次々に落札し、ついには自分のコレクションを集めた「日本宮」(ツヴィンガー宮殿)を作るように指示したほどです。
彼が柿右衛門にどれほど熱狂していたかを示すエピソードが残されています。
「世界一の壺」というふれこみの壺がオークションに出品されました。自分が買うべきものだと思っていたであろうアウグスト強王ですが、法外な値段にまで競り上がり、とうとうこの壺はプロイセン王により落札されることになります。しかし、アウグスト強王はその壺がどうしても諦めきれず、プロイセン王との交渉の場を設けます。その時に次の条件をつきつけられたのです。
「アウグスト強王が抱える180人編成の騎兵団と交換ならば考えてもいい。」
その騎兵団とはヨーロッパの最強騎兵団。自分の命、そして自分の領地を守る精鋭部隊。
悩んだ末に、アウグスト強王は騎兵団と壺の交換をするのです。
そんな数奇な運命をたどりながら日本から江戸期に運ばれた壺が、300年後、再び日本の地を踏み、栗田美術館に収蔵されることになったというわけです。
ドイツのマイセン窯のルーツ
このアウグスト強王こそ、焼き物への執念からマイセン磁器を生み出した王様です。
「はるばる日本からやってきた柿右衛門様式の作品は素晴らしい芸術品である。アジアから運ばれるようなものを我が領土でもつくろうではないか」アウグスト王は考えるようになります。
そこで彼は、錬金術師ヨハン・フリードリッヒ・ベドガーに磁器を作るように命じました。ドレスデンのアルブレヒト城に行くと磁器の材料を求めてベドガーが悩み苦しんでいる有名な絵があります。
「錬金術師」というところが面白いですが、結果的に1709年にザクセン・フォークラント地方で磁器の材料:カオリンを採掘できる鉱山を発見することになります。そして、翌1710年、ドレスデンに「王立ザクセン磁器工場」が設立され、これが現在の「国立マイセン磁器製作所」の始まりといえます。
そのころより、「柿右衛門様式」の作品を写して作り初めています。
その後、運搬を考慮し、エルベ川沿いのマイセン地方・アルブレヒト城の内部に移され、これがマイセン磁器のルーツです。つまりマイセンは日本の有田焼よりも100年程あとに始まったといえます。
そんな日本の有田焼とドイツのマイセンには共通点があります。時の為政者の焼き物に対しての執念。日本では秀吉、ドイツではアウグスト強王。その両者が偶然にも自分が拠点としていた場所や領地内から磁器の材料を発見したこと、そして運搬の都合に良い海や川の近くという地の利を得ていたのです。
さて、こうしてマイセンが生まれたことで、これまで焼き物を輸出することで外貨を得ていた伊万里一帯ですが、オランダ東インド会社からの発注が一気になくなります。
ヨーロッパに存在する日本の品物は、江戸中期の焼き物の次は、その160年後幕末~明治の作品にかわっていきます。
その歴史背景にはなにがるのか、、、、
パリやウィーン、世界各国で開催された「万国博覧会」。
「ジャポニズム」という言葉はなにかについて、美術商側から伝える話ができればと思います。
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京都美商ギャラリーは、1961年に京都下鴨で創立した西洋アンティーク・肥前磁器の専門店です。長年蒐集をしてきた経験をもとに、オールドバカラやオールドフランス、古伊万里や柿右衛門などを取り扱っております。量産品ばかりの近年では見られなくなった職人技、手作りの温かみの魅力をより多くの方に身近に感じて頂きたいと考えています。
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