京都美商ギャラリー 京都美商ギャラリーは、1961年に京都下鴨で創立した西洋アンティーク・肥前磁器の専門店です。長年蒐集をしてきた経験をもとに、オールドバカラやオールドフランス、古伊万里や柿右衛門などを取り扱っております。量産品ばかりの近年では見られなくなった職人技、手作りの温かみの魅力をより多くの方に身近に感じて頂きたいと考えています。

Sommelier- 連載1 (後半) 日本の焼き物を世界の舞台へ

一般社団法人日本ソムリエ協会が発刊する会報誌にオーナー井村による7回の連載を掲載:第1回目(後半)

             

オランダ東インド会社が日本の焼き物を世界の舞台へ

             

 

オランダ東インド会社の戦略

 オランダ東インド会社が重要な交易品としてなぜ焼き物に着目したかというと、船で運ぶ利便を考慮しての商材選びだったと思います。現代の船とは環境が全く異なります。温度や湿度管理、水の影響を考えると、焼き物はそのような環境に強いわけです。この時代にヨーロッパに運ばれた日本の屏風や金蒔絵をオランダの美術館やパリ・ロンドンのオークションで見ることがありますが、作品に損傷があり、ボロボロになっています。焼き物を交易品として選んだのは大正解だったと思います。

 オランダ東インド会社は、1年に1回、冬に5隻から10隻ぐらいの船団を組みオランダを出発して、長崎には5月ごろに到着します。荷を積み込んで、日本の台風がおさまる9月末から10月ごろに長崎を出港し、バタビア、喜望峰を経由して、オランダへ戻るというルートでした。台風や海賊、壊血病など、まさに命がけの航海だったと思われます。
 そうして運ばれた日本の焼き物はどう販売されたかの詳しい資料は残念ながら残っていませんが、アムステルダムの港に近い場所で開催されたオークションの様子が描かれた絵画を見たことがありますから、オークションなどによってヨーロッパの各地へ広がったと思われます。また、佐賀県立九州陶磁文化館によると、「古伊万里の道」展図録に寄稿された論考では、「1678年-エンクハイゼン」「1679年-アムステルダム」で焼き物が販売されたことが記されています。

古伊万里 染付VOC文字入大皿
古伊万里 染付VOC文字入大皿  1670年頃 シンボルマークの「VOC]はオランダ語社名の頭文字

 そういったオークションには、イギリス、フランス、プロイセン、ハプスブルク、ロシアなど各国の王侯貴族が集まります。そして、ヨーロッパでは見たことのない東洋の焼き物への憧れはもちろんのこと、オークションにて高額で落札することにより、自分の権力と財力を他国に見せつける最適な場所だったと考えられます。
 その中でもとくに日本の焼き物に目がなかったのはポーランド国王にしてザクセン選帝侯でもあったアウグスト強王。彼はもっとも高額でたくさんの焼き物を集め、宮殿に磁器の間を作るよう命じたほどです。

オランダ東インド会社が有田の分業システムをつくった

 当時、どのぐらい取引があったかというと、オランダ東インド会社のインボイスから、50年ぐらいの間に日本の焼き物は300万点ぐらいヨーロッパへ運んだことわかっています。このものすごい数を有田ではどうやって生産したのでしょうか。

伊万里輸出
 その秘密は「分業制」にあります。たとえば、有田では今でも、絵を描く場合、線を描く人と、その線の内側を塗る人と分けます。モチーフにより、動物を描く人、花を描く人、人物を描く人という具合に、それぞれの得意分野か見極め、専門性の高いプロ集団を作ったわけです。オランダ東インド会社は素晴らしい出来栄えの細密な作品をできるだけ数多く、スピーディに作れる体制を作り、ヨーロッパに持ち帰る数が多ければ多いほど、販売につながりました。それが必然的に有田の製陶技術のレベルアップにつながったわけです。
 この分業の伝統は現在の有田にも継承されていて、全行程が分業制になっています。たとえば、柿右衛門窯ならば、柿右衛門という指揮者を中心にろくろのプロ、染付のプロ、色絵のプロ、削りのプロなどといった、それぞれの専門家集団を率いて、芸術性の高い作品を生むようにアートディレクションするというシステムの全体が、現在では「重要無形文化財」となっています。
 このように、ヨーロッパで有田焼の大ブームが起こり、外貨をあれほど稼いでいたのに、なぜ輸出量が激減し、その後160年もの間、ヨーロッパから有田焼が忽然と消えることになったのか、、、

十三代柿右衛門 錦 五艘船文陶額
十三代柿右衛門 錦 五艘船文陶額1964~82年 オランダ商船をデザイン化したもの。300年たった今でも人気のある図柄。

 

 

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京都美商ギャラリー

京都美商ギャラリーは、1961年に京都下鴨で創立した西洋アンティーク・肥前磁器の専門店です。長年蒐集をしてきた経験をもとに、オールドバカラやオールドフランス、古伊万里や柿右衛門などを取り扱っております。量産品ばかりの近年では見られなくなった職人技、手作りの温かみの魅力をより多くの方に身近に感じて頂きたいと考えています。

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