ハンケイ500m(Vol.46)- 連載6 伝統を継ぐ今泉今右衛門の薫陶
-ハンケイ500m 連載6-
京都の「本物」を特集するフリーペーパーに6回の連載を掲載:最終回
1年に渡っての連載の最終回です。
鍋島藩ご用赤絵師として350年の伝統を継ぐ
「本朝無類」の色絵と謳われた、今右衛門の色鍋島
さかのぼること豊臣秀吉の野望によって、文禄・慶長の役後、李参平をはじめとする李朝の陶工たちが日本に連れてこられました。彼らによって、有田泉山で陶石が発掘され、江戸時代のはじめに日本初の磁器が焼かれます。さらいその数十年後、中国から赤絵の技法が伝わります。初代今右衛門は、当初から赤絵付けに携わっていました。
卓越した技術の今右衛門は、鍋島藩の御用赤絵師を務めます。鍋島藩の管轄のもと、赤絵の秘法は藩外に洩れることのないよう、一子相伝の技術で門外不出。赤絵窯のまわりに鍋島藩の幔幕をめぐらし、藩史の監視のもとで絵付けが行われたのです。
継承の色鍋島と現代の色鍋島の両輪で制作
今右衛門先生の窯に行くと、いつも感動してしまいます。おおかたの人間国宝の先生は、「忙しいから」と満足に会ってもくれませんが、今右衛門先生の工房は違います。いつ伺っても、「遠路はるばる来てくださって」と、旬の果物とお茶でのおもてなしをしてくださり、こちらが恐縮するほど心から歓待してくださいます。なにより、今右衛門先生の元で働く人々の熱意がすごく、工房が活気漲っているのです。
今右衛門家代々の理念で、御用赤絵師の家門の継承のみならず、現代の視点から自由に色鍋島を創作するという両輪で制作活動をされています。
-花無心-
花無心に蝶を招く 十三代今右衛門の揮毫
「花無心」、十三代今右衛門先生が揮毫してくださった額をいつも眺めています。
先生は「花はなぜ美しいかわかるか」と問われました。花は人に好かれたい、ひとや昆虫が寄ってきて、はじめて花粉がとんでゆくのだから、そのために出来ることを全部する。花は折られようが踏まれようが、噛みついたり毒を出したりしない。なにをされても受け身、ただ愛される事だけを考えている。だからどんどん美しくなっていった。
今右衛門先生は、芸術と花を同じとしていらっしゃいます。心から信じてモノを作っている人からは、花のように美しい物が生まれます。そうだないと、本当に人に愛されるものはできない、と言われるのです。今右衛門先生は、本当に「仏様」のような人物でした。
長いお付き合いの中で、とんでもない失態をしたこともあるのですが、なにひとつ嫌味を言われたことがない。絶対に相手を責めることされない。私が肥前古陶磁の不明な部分を解明する研究していることを知っているから応援してくださっている。
ある時、江戸中期の青磁のぐい呑みの鑑定を先生に頼みにいきました。ところが、先生がその作品を大変お気に召されたため、お譲りしました。
先生はその鍋島のぐい呑みを毎晩晩酌に使われていたようで、「この青磁を分けてくれた井村くんの心が嬉しくて、その想いに浸れるから、毎晩のようにこの青磁でお酒を飲んでいる」と奥様に話されていたことを亡くなれれてから伺いました。
このぐい呑みにはその後に続ストーリーがあり、十三代がお亡くなりになられた1年後、私の元に十四代今右衛門先生から贈り物が届きました。
それは十三代と十四代が並んで揮毫されている桐箱に入っており…。
どんな作品が入っていたかというと、十三代が気に入って毎晩使っていた青磁のぐい呑みの器形を生かし薄墨で手掛け作られてぐい吞みでした。この作品を手掛けている途中に十三代が他界されたため、十四代が仕上げて、送ってくださいました。
この作品を受け取ったとき、十三代の意思がご家族の中で守られ、生き続けていることを痛感しました。十三代今右衛門先生に学び、人の心を幸せにする美術作品の真贋を知りました。
2018年、1年間に渡ってお送りしたハンケイ500mの連載は、今後も続きます。
次年度は一つの作品にフォーカスし、美術の見方を伝える内容で連載する予定です。
どうぞお楽しみに(^^♪
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