ハンケイ500m(Vol.45)- 連載5 AJA鑑定協会の発足
-ハンケイ500m 連載5-
京都の「本物」を特集するフリーペーパーに6回の連載を掲載:5回目
日本とフランスの識者がオールド バカラを鑑定
立ちはだかる壁
誰もがエミール・ガレを求めた1980年代後半、バブル景気の渦中、ガレはすでに研究が進み絶大な人気がありました。しかし、バカラの芸術性に魅せられた私は、埋もれてしまったオールドバカラを表舞台に戻す事が西洋美術商としての使命と考え、バカラの収集を始めました。ところが当時、主だった販売ルートであった百貨店では、また一般の評価を得られていないオールドバカラを扱うことができなかったのです。実は、1936年までバカラ社は作品にサイン(マーク)を入れるのではなく、シールを張っていました。そのため、ほとんどの作品にシールが残っておらず、信用第一の百貨店でサインがない作品を扱うことなど、考えられなかったのです。
オールドバカラ正規輸入元 第一人者への道のり
そもそも百貨店にとって、大きな総売上の中で美術品の売り上げは微々たるもの。その上、百貨店では証明書がない作品を扱うことはありません。そこで起ち上げたのがAJA鑑定協会(ART JADGMENT ASSOCIATION)です。
そのメンバーは、フランスの国家試験を受けてオークションを開く権利を得たエキスパートと、バカラ美術館設立時に学芸員として尽力した専門家、最もオールドバカラに長けた者たちで構成されています。彼らと共同で厳正にアートジャッジメントをして、真作と認定したものにだけに鑑定書を発行します。
こうして98年に井村美術館の鑑定部門としてAJAは発足したのです。ジャポニズム時代のオールドバカラを日本で流通させる事は京都美商にしか出来ないと、腹を括ったのです。
ルイ15世の目論見
-バカラ村にガラス工場設立-
高級テーブルウエアとして世界中に愛されたバカラは、1764年、フランスロレーヌ地方のバカラ村にガラス工場を設立したことに始まります。
透明なガラスは15世紀後半からイタリアヴェネチアで作られはじめ、その後、ボヘミア地方で純度の高い透明ガラスが生産されます。ちなみに、1671年にはイギリスのガラス工場で水晶のような透明感をもつクリスタルガラスが誕生します。
それに対して、フランスはガラス工芸に関して出遅れていました。その時分、サロンで使われる高級テーブルグラスは、ほとんどボヘミア製の輸入品で、その対価はフランスの財政にひびきました。そのためルイ15世は、自国でガラスを生産しようと目論見ます。ナンシー地方の多くのガラス工場を作り、「バカラ」という小さな村でバカラは誕生したのです。
ガラスの生産に必要なのは、水と鉱石。ボヘミア(現・チェコ)とロレーヌ地方のバカラ村は隣合せで、やはり同じような土壌から発展しています。それまで製塩を生業にしていた村ですが、製塩が廃絶したため、その燃料にしていた薪炭が豊富にあったのです。戦争で疲弊していた国力を高めようと国王はガラス工場を興すことを奨め、ムルト川右岸に建つ工場のまわりに職人を住まわせます。
フランスが誇る食外交の卓上で輝くバカラの色グラス
本来、ガラス食器というのは透明なのが基本。透明グラスのほうがワインの色を引き立てるのですが、バカラは美しい色彩がほどこされています。それは王様の意向によるものです。
食外交は大事で、国の命運を掌ります。フランスは意外と戦争に負けている。にもかかわらず、いい条件で戦争を終えています。それは食外交が上手だからとも思えてきます。美味しいもので相手をもてなし、お酒をすすめる。それもできるだけ少人数でのセッティングで心を和ませます。そしていよいよ、デザートのときに一番難しい話をする。血糖値が高い時に話をしないと、絶対うまくいかない、これは意図されたものです。
豪奢な部屋で、流行モノの調度品に囲まれ、テーブルに宝石をちりばめて、人を陶酔させる。その宝石の替わりに、美しい発色の色グラスを置いたのです。フランス外交のために、バカラのクリスタルガラスは一役買っていたのかもしれません。
オールド バカラの被せガラス
美しい色ガラスの発色は、ダイヤモンド、サファイヤ、アメジスト、ルビー、ガーネット、トパーズ、エメラルドなど、色とりどりの宝石をイメージさせた。
1900年代のクリスタルの質は、どこか黄色っぽい優しい光を放っています。
当時のクリスタルの質といってもいいでしょう。
コレクターの中には、このよういに古い時代のクリスタルの輝きが好きとおっしゃるかたも多いです。
1971年、クリスタルガラスの定義がEC全域に発布され、光の反射率、屈折率がより高くなりました。
「70年以降のクリスタルは、青っぽく透明感が上がっていますが、色気がなくなった。現代のものに比べるとオールドバカラは、素材に雰囲気があって、色気がある。アンティークのグラスが、古びているように見えることがあるでしょ? あれは使い込まれてくすんでいるのではなくて、生まれ持ったの風合い、そのグラスがもつ雰囲気なのです。今は何もかもがクリアになりすぎているようにも感じます。」(井村談)
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オールドバカラ・柿右衛門・今右衛門の専門店|京都美商ギャラリー
京都美商ギャラリーは、1961年に京都下鴨で創立した西洋アンティーク・肥前磁器の専門店です。長年蒐集をしてきた経験をもとに、オールドバカラやオールドフランス、古伊万里や柿右衛門などを取り扱っております。量産品ばかりの近年では見られなくなった職人技、手作りの温かみの魅力をより多くの方に身近に感じて頂きたいと考えています。
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